ナノリットルコアと抗酸化性磁性液体シェルを持つ
コアシェルエマルションの作製と制御

内田 幸明
(大阪大学大学院 基礎工学研究科 物質創成専攻化学工学領域 准教授)

2014年4月28日月曜日

内部の酸化を防ぎ、磁石にくっつく、金属を含まないマイクロカプセル

国際科学技術財団に助成いただいて研究を行ってきた研究の成果がようやく形になりました。

題名は"Magnetically Transportable Core-Shell Emulsion Droplets with Antioxidative All-Organic Paramagnetic Liquid Shell"で、 Journal of Materials Chemistry B誌に掲載が決まりました。

やさしい科学技術セミナーでお話した磁石にくっつく液体のお話です。

コアシェルW/O/Wダブルエマルションというものがあります。
下の絵にあるように、中に水(Water)、真ん中に油(Oil)、外に水(Water)
という構造をもつもので、論文ではマイクロカプセルと呼んでいます。

私たちの研究室ではマイクロ流体デバイスと呼ばれる装置に三つの流体を流して、
マイクロカプセルを作っています。
このデバイスは私がHarvard大学のD. A. Weitz教授の下に留学していたころに修得したもので、
論文では、磁石にくっつく液体をシェル部の油として用いることで、
磁石にくっつくマイクロカプセルを作っています。
過去の研究として報告されている磁石にくっつくマイクロカプセルは、
酸化鉄のナノ粒子を分散させた流体が磁石にくっつくのを利用しているものです。
一方、我々が使用している液体はニトロキシドラジカルと呼ばれる有機物で、
下のような構造式で書かれます。

なぜ磁石に引き付けられるのかというと、構造式の中のOの横に点で描かれている
不対電子が原因です。
どういうことかというと、電子は一つでいるときは磁石のような性質を示すのですが、
通常の有機物では磁石としての性質を互いに打ち消すように、
電子が二つずつペアになっています。

一方、ニトロキシドラジカルのOは酸素のことですが、
酸素には結合に使われる電子が二つあるにもかかわらず、
一本しか結合がありません。
つまり、一つだけで孤立した電子の磁石としての性質が打ち消されていないために、
磁石に引き寄せられるようになっているということです。
このような性質を常磁性と呼びます。
通常ラジカルというものは、すぐに外のものとくっついてしまうため不安定です。
しかし、今回使ったニトロキシドラジカルは孤立した電子の周りが覆われているために
長時間安定に存在することができます。

もう一つ大事なことは、このニトロキシドラジカルが抗酸化剤として働く能力を持っていることです。
具体的には活性酸素を分解する能力を持っています。
この研究では、活性酸素と反応することで光を発する
ルミノール(犯罪捜査で血液の検出に用いられるものです)を
マイクロカプセルの中の水に溶かしておいて、
外から活性酸素の供給源となる過酸化水素を添加して
ニトロキシドラジカルが抗酸化剤としてちゃんと働くのかを試してみました。
普通の油で作ったマイクロカプセルでは発光するのに対して、
ニトロキシドラジカルで作ったマイクロカプセルではまったく発光しませんでした。

このニトロキシドラジカルのマイクロカプセルは酸化ストレスの測定の際に、
余計な反応が起きないように対象を保護して、
磁石で動かすことのできる容器になるのではないかと考えて、
現在、研究を次のステップに進めようとしています。

0 件のコメント:

コメントを投稿